豊雲野神(トヨクモノ)は、神代七代に登場し、生命に満ちた豊穣な大地を神格化した存在です。異称として、豊斟渟尊、豊斟渟神、豊国主尊、豊組野尊とも記されます。
豊雲野神とは
古事記では、天地開闢神話で、別天神(ことあまつかみ)五柱に続く神代七代(かみのよななよ)の神々のなかで、国之常立神(クニノトコタチ)に次いで二番目に登場する神です。
国之常立神から伊邪那岐神(イザナギ)・伊邪那美神(イザナミ)までの神代七代の神々のなかでは、はじめ二代の国之常立神と豊雲野神の二神だけが配偶神のない独神(ひとりがみ)で、別天神同様身を隠しました。他の神は配偶神であり、身を隠しませんでした。
日本書紀の本文では、豊斟渟神(トヨクムヌ)として登場します。天と地が分かれたのち、葦牙(あしかび)のようなものから国之常立尊、国狭槌尊(クニホサヅチ)に続いて、陽気のみを受けて出現した男神とされています。
古事記では、天地開闢後も流動浮遊していた天地が、永久に安定した状態に至ったことを神格化して、天之常立神(アメノトコタチ)、国之常立神(クニノトコタチ)と呼びます。豊雲野神は、その「国の礎」である国之常立神の出現を受けて登場する神で、国・大地の生命に満ちた豊穣な状態を神格化したものです。
宇摩志阿志訶備比古遅神(ウマシアシカビヒコジ)と天之常立神が、大地に由来する豊かな生成力・生命力とそれによる「天の礎」の成立、と考えるならば、国之常立神と豊雲野神は、「国の礎」と豊かな大地の状態、と考えることができます。大地に由来する天常立神に生命が横溢するなら、国之常立神も同じように考えることができます。
神名について、トヨ(豊)は「豊かな」と問題なく解釈ですます。トヨが「雲野」の「雲」「野」のどちらにかかるかについては、両説があります。豊かな雲に覆われた野と、雲に覆われた豊かな野のどちらにかかるのかという話しです。豊雲野神が国・大地の展開のなかで登場する点からいえば、基本的には「野」だと考えられるでしょう。
豊かな雲に覆われて雨・水の心配がいらない原野、また雲に覆われて雨・水に困らない豊かな原野、どちらにしても葦原の原型を連想させます。豊富な水による植物に生長や、未来の生産の豊穣を想像させる点で共通します。神話は多義的・重層的なイメージであるので、ここはどちらかにこだわらず受け入れるのがいいでしょう。
豊雲野神の神格
- 大地の根底にある豊穣な生成力・生命力
- 雲に覆われた豊かな大地の神
豊雲野神のご利益・神徳
- 五穀豊穣
- 無病息災
豊雲野神の別の呼び方・異称
- 豊斟渟神
- 豊国主尊
- 豊組野尊
豊雲野神を祀る主な神社・神宮
- 御嶽神社(東京都大田区)
- 岩根神社(島根県雲南市)